松原(写真左）：税理士先生の間でもクラウドへの関心が高まっていますが、マネーフォワードさん主催の「MFクラウドExpo 2015」にも多くの会計人が来場したとお聞きました。
辻：1,000名を無料招待させていただきましたが、そのうち約300名は税理士・公認会計士の先生方でした。Expoには、クラウドのリーディングカンパニー20社に参加して頂きましたので、様々なクラウドサービスを一度にご覧いただくことができたのでは、と思います。
大前研一氏や堀江貴文氏の特別講演や、そのほかの講演も非常に素晴らしく、情報収集という面でも有意義なイベントだったと思います。クラウドといえば、松原社長は税理士に特化した「ＴＲＵＳＴＡＸ（トラスタックス）」というサービスを提供されていますね。
松原：トラスタックスは、ユーザーの希望する条件やニーズを満たす税理士とマッチングを実現するサービスです。ユーザーは無料でサービスを受ける事ができ、更に顧問料の一部が無料になるなどのメリットがあります。一方、税理士事務所は、ユーザーの見積り依頼や相談に対して、受託したい地域や業務のみに絞りアプローチすることができるので効率良く、顧客開拓ができます。費用も成果報酬ではなく、月額固定費で提供していますので低コストといえます。
辻：多くの企業が税理士先生と顧客とのマッチングサービスを提供していますが、他社との違いなどはありますか。
松原：従来のマッチングサービスは、料金に応じて見込客の紹介件数が決まったり、成約すれば年間報酬の50％を支払うなど、顧客獲得と料金の関係だけがクローズアップされていました。こうしたサービスでは、先生方は紹介を待っているだけ、業者がすべてお膳立てをしますので、当然、大きなコストがかかってきます。私どものサービスでは、先生方にもチャットなどを活用して顧客獲得に向けて少し頑張っていただき、その代わりにコストと時間を抑えることができるという点をアピールしています。もちろん、顧客獲得のノウハウ提供や、成約事例の公開など、私どもがしっかりフォローさせて頂きます。
辻：利用される方は若い先生が多いのでしょうか？
松原：開業間もない方もいれば、大きな事務所の先生もいらっしゃいます。
共通しているのは、皆さん、税理士事務所の仕事をサービス業と捉えているところ、そして私どもの話を『税理士』ではなく『経営者』の視点で聞いてくれるところですね。
辻：確かに、税理士事務所は税務のプロであると同時に、一般企業と同様に、営業活動やITインフラの整備、職員教育など、『経営者』として様々な判断やアクションが必要です。私自身、多くの会計事務所とお付き合いさせて頂いていますが、同じ『経営者』として学ばせていただく機会が多いです。
松原：まさにその通りですね。税理士数が増え続けていく一方、法人数は減少しています。マーケットが縮小する中で、これまで営業に力を入れてこなかった事務所でも、このままではいけないという危機感を持たれるところが、確実に増えています。ところで、マネーフォワードさんでも見込客のマッチングサービスを提供されていますね。
辻：私どものサービスを利用されているユーザー、起業したばかりで顧問税理士が決まっていていない経営者の方々や当社ユーザーの方々から、「クラウド会計に精通している税理士先生を紹介してほしい」というご要望があり、税理士先生を無料で紹介させていただくサービスを始めました。ただ、どの先生が自分に合っていて、充実したサービスを提供されているか、分かりづらいという課題がありました。そこで、税理士事務所や税理士法人向けに「MFクラウド公認メンバー」という制度が作り、私どもがコミュニケーションを取っている税理士先生をご紹介しています。
松原：当社もなるべく先生と直接会い、対話しながら情報収集を行い、自分たちで画像や動画を撮影してサイトに掲載するようにしています。先生方の強みや得意分野などをしっかり把握できますので、精度の高いマッチングを実現させる強力な武器になります。同時に、メディアとしてみても、信頼感のあるものが作れると考えています。
インターネットの普及と税理士事務所の働き方に変化

辻(写真左）：顧客拡大という観点からは、インターネットを有効活用すれば、もっと気軽に遠隔地の中小企業と顧問契約を結ぶことができると思います。営業スタイルやコミュニケーションの方法が変わっていきますので、税理士事務所の働き方も必然的に変わってくるのではないでしょうか。
松原：そうですね。例えば、一人の先生が20～30社を担当するのが限界だとしても、ＩＴを駆使すれば、それ以上の顧問先を抱えることができます。ただ、小規模事務所でいくのか、スタッフを増やして拡大するのか、どこかで選択する必要は出てくるでしょう。いずれにしても、お客様のニーズや考え方は時代の変化やＩＴの進歩によって変わってきますので、従来の税理士事務所の考え方に縛られているのは危険だと思います。
辻：そうですね。印刷業界にクラウドを取り入れた「ラクスル」さんなど、クラウド業界にも変革者がどんどん現れていますので、今後さらに進歩していくと思います。個人的なイメージとして、今、クラウドという新しい道路ができて、その周りに商店が少しずつ立ちはじめ、交通量も増えつつある、そんなふうに考えています。とはいえ、成熟するのはあっという間だと思います。スマートフォンが登場した初期の頃と似ている感じがしますね。

松原：マネーフォワードさんのサービスもどんどん改良されていきそうですね。
辻： 決算や税務申告など、中小企業にとって税理士先生は不可欠な存在です。私どもはツールを提供するだけですが、それならば日本で一番使いやすいものを作り、 税理士先生の業務を少しでも支えることができればと考えています。「ＭＦクラウド会計」を使って頂けると、既存の会計システムに比べて、様々なコストが大 幅に下がります。システムコストは勿論のこと、銀行やクレジットカードなど金融機関からのデータの自動取込などによってオペレーションコストも大幅に下が り、事務所内の業務効率も大きくあがります。また、税理士先生を探しているユーザーの中小企業の皆様には、私どもとお付き合いのある先生をご紹介いたしま すので、売上面でも貢献していきたいと思っております。

松原：私どもとしては、士業の方が他士業との提携ニー ズ、そしてユーザーからのワンストップでのサービス提供のニーズが今後さらに高まると思いますので、士業間をネットワーク化するサービスを開発中です。ま た、会計事務所の売上アップや営業力強化などを支援し、最終的には税理士の先生が関与先に売上アップを提案できるようなパッケージ商品なども開発していく 予定です。
辻：売上を伸ばすためのノウハウや採用などの経営に関する大きな課題へのアドバイスをくださるよ う な事務所さんからは、お客様も絶対に離れないですよね。経営者としても営業力や売上アップの方法は一番教えてほしいところだと思います。物を作っても売れ なければ意味がありませんから。売上アップなど経営者が悩んでいる課題に対してアドバイスをしてくれる会計事務所があれば、ぜひそちらに頼みたいという ニーズも出てくるのではないでしょうか。
松原：私どものマッチングの成約事例を見ると、税理士の変更というニーズがかなり多いです。お客様の税理士事務所に求めるニーズの多様化を強く感じています。
辻：一番重要なのは、ＩＴなど環境の変化に対応するのではなく、環境の変化にともなうお客様のニーズの変化にどのように対応していくか、そこかもしれませんね。
松原： そうですね。いつの時代も、どんなビジネスでも、お客様のニーズをしっかり把握して、それに応えるサービスを提供することが不可欠だといえますね。