クローズアップインタビュー

インタビュー

太田氏、梅澤氏

総務省3年メドに改革推進
「地方公会計」ビジネスの将来性を探る

OAG税理士法人 代表社員 太田 孝昭税理士
同税理士法人パブリックセクター事業部
 公会計担当課長 梅澤 崇仁 公認会計士

太田氏:「関心高める自治体側へのサポートで会計事務所に商機」

梅澤氏:「固定資産台帳の整備、複式簿記化を手始めにアプローチ」


地方自治体に民間企業並みの財務諸表作成を求める「公会計改革」が進展している。その起爆剤となっているのが、総務省が公表した「今後の地方公会計の整備推進」だ。それによると、公会計の“複式簿記化”は移行期間3年をめどに、実現を目指すという。これまで、「公会計」の分野は、税理士の新たなビジネスチャンスになると言われ続けてきたが、これを契機に弾みがつくのだろうか。昨年法人化した「一般社団法人 地方公会計研究センター」の副代表で事務所内に公会計の専門セクションを設けているOAG税理士法人の太田代表と実務担当で公認会計士の梅澤崇仁公会計担当課長に、現状を踏まえてビジネスの将来性を検証してもらう。
(写真は左から太田 孝昭税理士、梅澤崇仁公認会計士)

2014年12月04日

まずは、地方公共団体が抱える会計処理の問題からお聞きします。

梅澤:地方財政の状況が厳しさを増す中、地方公共団体には財政の透明性を高め、自由かつ責任ある地域経営が求められています。しかし、単式簿記・現金主義による現行の官庁会計では、総勘定元帳や固定資産台帳がなく、会計人であっても地方公共団体の決算書類から財政状態を把握するのが困難な状況にあります。そこで、国としても地方公会計を整備することで、財政の効率化・適正化を推進する活動を展開してきました。平成18年度には、総務省に「新地方公会計制度研究会」が設置され、新地方公会計モデルとして「総務省方式改訂モデル」および「基準モデル」が示されました。

それでも問題は解決されなかったわけですね。

OAG太田代表

梅澤:その2つの会計モデルのほかにも、東京都方式や大阪府方式などが混在し、ほかの地方公共団体の財務状況と比較することができなかったわけです。そこで、総務省では研究会の議論を重ね、平成26年4月に「今後の地方公会計の整備推進」を公表し、地方公共団体の財務諸表作成の“統一的な基準”を設定することとしました。具体的には、発生主義・複式簿記の導入、固定資産台帳の整備、比較可能性の確保などを示し、平成27年から3年間を目途に移行するように求めています。

企業の会計処理に近づくような感じでしょうか。

OAG太田代表

太田:そうですね。そもそも従来の会計処理で経営なんてできませんよ。トンネルの天井板が落下した事故を受けて、全国のトンネルで金槌を叩いてボルトの痛みを確認していましたが、本来であれば耐用年数が分かっていますので、その時期を見計らって確認したり修理するのが一般的です。地方公共団体は、何かを作る時には高額の予算を押さえるものの、アフターコストに対する認識が甘いと思います。客を呼んで収入の確保を見込んでいたものの、客がまったく集まらずに修理費を賄うことができない。そんなケースも少なくありません。

経営ができていないわけですね。

太田:市町村長は選挙で選ばれますので、ほとんどが経営を知らない方々です。リストラをすると言っても、新人の採用をストップして、定年退職する方々を待っているだけです。経営危機の企業であれば、こんな悠長な人事政策はあり得ないでしょう。また、年功序列の世界ですから、キャリアプランも発揮できないと思います。やはり、会計事務所が自治体に寄り添い、経営をバックアップすることが重要だと考えます。それは社会的に意義ある仕事で、ステータスにもなります。全国に第3セクターがたくさんありますので、そこでも会計事務所にサポート役が求められてくるはずです。

具体的にどのように公会計制度改革に携わっていけばいいのでしょうか。

梅澤:最初のアプローチとしては、固定資産台帳の整備をお手伝いすることが最適といえます。どのような資産をいくらで登録するのか、何年で償却するのか、現場の担当者に入力の仕方を分かりやすく説明するという作業からスタートします。記帳代行の延長線上に近い業務処理とも言えるもので、税理士にとってハードルは決して高くありません。次に、地方公共団体は歳入・歳出の決算はきちんと整理されていますので、それを複式簿記に変換していくお手伝いをします。ここまでは地方公共団体の足元を固めるための支援といえますね。
太田:アメリカなどで橋が落ちる事故が報告されていますが、日本のインフラ整備は10年遅れていますので、こうした事故が日本でも10年後には起きるかもしれません。どのような部分に資金を投入し、どれについて諦めるのか、財政面において取捨選択に迫られるでしょう。そうした将来的な財政計画にも関与していけると思います。

地方公共団体とのコネクションがなくても関与できますか。

梅澤:意外だと思われるかもしれませんが、複式簿記化などについてセミナーを開催すると、地方公共団体の関係者がたくさん集まります。公会計は総務省が音頭を取っていますので、現場の方々もある程度は対応しないとマズイという認識があるようです。セミナー終了後に個別相談の場を設けてアプローチしていくわけです。
太田:公務員の方々は優秀ですが、理屈がなければ動かないという傾向もあります。一方で、全体の中でビリになることを嫌い、トップランナーになることも避けたがる。常に真ん中にいることを好むわけです。恐らく、周辺の地方公共団体の中にも公会計改革に向けて動き出したところがあるはずです。そのため、あまり放置していると最終ランナーになってしまうという危機感は出てきていると思います。

現在の関与件はどれくらいですか。

梅澤:公会計改革のお手伝いを含め、事務所では30~40件ほどの地方公共団体との契約がありますが、実際に携わってみないと分からなかった問題もあります。例えば、地方公共団体も官公庁と同じく非常に縦割りで、固定資産台帳をとりまとめる部署が、別の部署に対して細かい説明もなく、単に「情報を出してください」などと照会しても、すぐには対応してくれません。ですから、全職員の意識統一に向けた研修会を行うようにしています。また、何をどのような手順で進めていくか、細かなスケジュール管理も重要といえます。

小規模事務所でも対応できるのでしょうか。

太田:公会計改革の支援に向けて人員の投入や教育などは欠かせませんが、役割分担をして業務を効率化すれば少人数でも対応できます。現場の職員に対して説明できるスタッフが一人、これは有資格者のほうがいいと思います。あとは、事務作業を処理する職員やパートスタッフを配置します。私どものパブリックセクター事業部では、公会計改革支援の担当として梅澤を含めて有資格者3人と職員1人、パートスタッフ2人で対応しています。一般企業と違って地方公共団体の処理内容はそれほど違いがないので、パターン化しやすいと思います。私は一般社団法人地方公会計研究センターの副代表を務めていますが、同センターでは公会計改革を支援するためのコンサルティングツールの提供や営業支援などを行っています。

センターの今後の活動や事業展開については。

太田:現在、全国で40会計事務所が入会しており、それを100事務所まで増やしたい。都道府県の中には会員ゼロという地域もあります。公会計改革のビジネスマーケットは全国にありますので、各地の地方公共団体をサポートできるように、各地の会計人に参加を呼び掛けていきたいと思います。地方自治体の財政状況は非常にひっ迫しており、まさに待ったなしという状況です。是非、全国の会計事務所に地元の自治体ならびに地方公共団体をサポートしていただきたいと思います。

ズバリ、「公会計ビジネス」の将来性についてはいかがでしょうか。

梅澤:この分野は、とくに大手監査法人の領域にあり、我々会計事務所の出番はない、とまで言われてきました。ところが、公会計改革の環境整備期間を会計事務所がどう捉えていくのか、その本気度にかかっていると言っても過言ではありません。将来的には、会計事務所が地方公共団体の財務数値を基礎とした経営分析業務に踏み込んでいけることが望ましいと考えています。
太田:やはり、公会計改革を意識したアクションは必要で、“公会計に強い事務所”としてのアピールをしていくことにより、おのずと職域は拡がっていくものと、確信しています。地方公共団体の顧問になるチャンスがようやく訪れた格好で、ビジネス以外に社会貢献というステータスを掴める可能性が出てきているのは確かです。

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