クローズアップインタビュー

インタビュー

6面中川公認会計士s

記帳が自動化する世界で、会計人の未来はどうなるのか?
「人手が要らなくなる経理のしくみ」の指導・調整役に

公認会計士中川充事務所 中川 充氏


2015年、野村総合研究所は海外の大学との共同研究で、国内601種の職業が人工知能やロボット等で代替される確率を試算しました。いわゆる「将来無くなる仕事」です。10~20年後に代替可能性が高い上位100種の中には、「経理事務」「会計監査」も含まれています。しかし当時は、「まだ先の話だろう」と他人事にしか感じられませんでした。人手が要らなくなる経理のイメージが想像できなかったからです。本稿では、これから大きくシフトしていくだろう経理・会計のしくみの変化をわかりすくお伝えします。

2021年12月01日

中川 充 公認会計士・税理士


1993年公認会計士二次試験に合格。朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて法定監査、システムコンサルティング会社でERPの導入支援を行う。2004年公認会計士中川充事務所を設立。システム・業務・会計を統合し、経営のしくみ構築・改革(スリム化・デジタル化)を得意とする。主な著書に「お金を捨てないシステム開発の教科書(技術評論社)」がある。

今年3月、電子帳簿保存法が改正されました。その中身をはじめて知った時、私は血の気が引きました。「これは大変なことになった」と。たとえるなら、経理事務や会計監査が無くなる最後のトビラが開いた感じです。いま、「人手が要らなくなる経理のしくみ」がはっきりと見えつつあります。というより、それはすでに一部、現実化しています。まずは経理の基本である記帳がどのようにAI等に代替されていくか。ITが不得手な方にもわかりやすく、順を追って説明していきます。

1.会計システムのクラウド化

長年、会計システムと言えば、自社のサーバーやパソコンにインストールして使うのが当たり前でした。これは「パッケージ版」と言われており、個人・中小企業から大企業まで、今も多くの企業はパッケージ版を利用しています。まずこの形が大きく変わってきました。
「クラウド版」の登場です。
※クラウド版とは、会計ベンダーが提供する環境(クラウドサーバー等)にネットワークを介してアクセスし、会計システムを利用する方法です。パッケージ版とは異なり、社内で環境構築(サーバーやデータベース等)する必要がありません。
freeeやマネーフォワードなど、クラウド専用の会計ベンダーはもちろん、OBC・弥生・PCAなどの老舗の会計ベンダーも、パッケージ版からクラウド版への切り替えを進めています。中には、中堅企業向けのベンダーですが、クラウド版しか販売しなくなったところもあります。
クラウド版は、ユーザーにとって価格・機能・サービスすべての点において、パッケージ版より優れています。唯一のデメリットは応答速度(レスポンス)でしたが、これも企業内や公共の通信回線の大容量・高速化で、パッケージ版とそん色なく使えるようになってきました。会計システムの所有(パッケージ版)から利用(クラウド版)の流れは、もはや止まらないでしょう。

2.API連携による記帳の自動化

クラウド版の特長とも言えるのが「API連携」です。異なるアプリケーション間でデータをやり取りすることができます。たとえば、銀行システムとAPI連携すると、自分の銀行口座の情報を会計システムに取り込むことができます。取引日、取引内容、入金額(または出金額)の明細データがあれば、あとは相手科目を入力すれば、入金仕訳(または出金仕訳)の出来上がりです。AIで取引内容から相手科目を推定したり、事前に条件設定(取引内容にJRとあれば、旅費交通費にする等)しておけば、相手科目を自動登録したりすることも可能です。
  まさに記帳の半自動化・自動化です。またAPI連携先は銀行口座に限りません。クレジットカード、ECサイト、交通系ICカード、電子マネー、ポイントカード、電子マネーなど、様々なものが対象となります。実際、私の事務所の経理も、銀行口座、クレジットカード、Amazon、モバイルSuica、請求書発行サービス等とAPI連携し、効率化を図っています。

3.スキャナによる記帳の自動化

API連携を使えば、仕訳の大部分を自動化・半自動化できます。具体的には運用の変更(たとえば、売上入金はこの通帳だけにする等)、自動仕訳のルール設定など、段階的に調整しながら自動化部分を増やしていくことになります。しかし、どんなにAPI連携を増やしても、完全に紙のレシートや請求書が無くなることはないでしょう。残った紙の証憑にいかに対応するかが求められます。1つの答えが「スキャナによる記帳」です。
私の事務所の例で言えば、自分のスマートフォンの会計クラウド専用アプリを立ち上げ、紙の証憑をパチリと撮影します。画像はすぐにOCR分析され、少なくとも日付・金額をデータ化してくれます。あとは必要に応じて摘要を入力すれば完成です。なお、記帳に要する時間だけで言えば、スキャナより仕訳を手入力するほうが早いです。次の電子帳簿保存法まで含めると、スキャナ記帳の価値が出ます。

4.電子帳簿保存法の大幅な緩和

令和3年度の税制改正で、電子帳簿保存法の要件が大幅に緩和されました。事前承認が不要になったほか、スキャナ保存では、書類自署・相互牽制の要件が廃止されました。これがどんな変化をもたらすのでしょうか?中小企業の社長同士が二人で食事に行ったと想像してみて下さい。割り勘で支払いを済ませ、それぞれの社名が書かれた紙の領収書をもらいます。一人社長は大事に財布にしまい、もう一人の社長は携帯で撮影し、その場でゴミ箱に捨てる(注:データアップロードと同時にタイムスタンプ付与の想定)。財布にしまった社長は、驚いてもう一人の社長に尋ねます。「領収書を捨てて経費精算は大丈夫なのか」と。もう一人の社長は笑いながら答えます。「うちは電子帳簿に対応しているから、これでOKなんだよ」と。翌日、財布にしまった社長は、経理担当者に電子帳簿対応を指示するに違いありません。経理が原本レシートを確認して台紙に張る光景は、近いうちに過去の遺物になるかもしれません。それほど今回の改正は大きなインパクトがあります。
ここまでを整理すると、会計クラウド環境下のAPI連携、改正電子帳簿保存法下のスキャナ保存、これらが相まって記帳の自動化を推し進め、経理の人員を減らしていく(究極は無人化する)。これが「人手が要らなくなる経理のしくみ」です。では、記帳の自動化が進んだ世界で、私たち会計人の仕事、税務や監査はどうなると予想されるでしょうか?

6面の図大

●監査の未来

会計プロセスを「記帳」「決算」「申告」の3つに分けて考えてみると、監査の役割は「決算」の正しさを担保することです。一方で、決算の大部分は「記帳」から成り立っています。決算固有の処理もありますが、それはごく一部にすぎません。決算の大部分を占める記帳が自動化されれば、当然に監査の仕事も激減していくでしょう。またごく自然に考えて、記帳が自動化されれば、その次は「決算の自動化」です。上場企業の法定監査のしくみがすぐ無くなるとは思いませんが、中小企業向けの監査は、記帳の自動化とほぼ時を同じくして消えていきそうです。

●税務の未来

税務は会計プロセスの「申告」に当たりますが、申告の基礎となるものも「記帳」です。記帳の自動化は、税務の仕事(特に記帳代行)も減らします。また、主要な会計システムベンダーは、会計システムの製品群の中に、税務申告書作成システムを取り揃えています。今はまだ申告書の作成支援ですが、「記帳の自動化」「決算の自動化」が終われば、最後は「申告の自動化」です。これにはもう少し時間がかかるでしょうが、今回の電子帳簿保存法の改正のように、政治が制度簡素化など後押しをすると早まります。
今後5年のうちに、従来型の経理・監査・税務が大きく変わるのは間違いありません。しかしだからと言って、私は会計人の仕事が消えて無くなるとも思っていません。質的に変化するだけだと考えています。その話をする前に一つ質問です。「人手が要らなくなる経理のしくみ」は、中堅企業と中小企業、どちらから普及すると思われますか?
私の答えは「中小企業」です。中小企業の経理はシンプルです。月次は現金主義であり、部門別会計をやっていません。部門別会計をやっていたとしても、部門数は知れています。これに対して、中堅企業は月次も発生主義で、部門別会計をやっています。このためAPI連携で取得したデータを加工せず、自動仕訳化するためには一工夫しなければなりません。たとえば、預金のバーチャル口座を利用して部門別に口座番号を持ち、口座番号12345に入出金したら、営業部門の入出金とする。あるいは、従来の管理会計を見直して、簡素化する。
工夫は会社だけではありません。ある会計システムベンダーは最近、プリペイドカードを部門数だけ発行し、部門と経費の紐づきができる新サービスをリリースしました。いかに複雑な仕訳を持つ中堅企業をAPI連携で自動化していくか。実はここに、会計人の新しい役割のヒントがあります。
記帳を自動化するためには、最初に自動化するための業務デザイン、ルールを設定しておく必要があります。しかも、それは記帳だけの視点で考えるべきではありません。記帳データが流れていく先、監査や税務まで見据えたものです。
そうしないと、せっかくAPI連携しても上手く自動化できなかったり、後工程でムダな手修正が発生したりしてしまいます。

さらにこれらは一度自動化して終わりではありません。その後も部門の業務に新しい内容が加わった、得意先や仕入先との取引条件が変わった等に合わせ、業務やルールの修正・調整が必要となります。プランナー、デザイナー、コーディネーター、呼び名は何でも良いのですが、これからはそういう役割が私たち会計人には求められると思います。
最後に、「そうは言っても、いまだに“紙”で何もかも処理している、売上規模1億円未満の企業で、はたして記帳の自動化が一気に進むのでしょうか?」半信半疑の方もいらっしゃるでしょう。ポイントは「記帳の自動化」と「ペーパーレス」は同じ話ではない、ということです。どんなに紙が多い会社でも、銀行口座はあります。クレジットカードの2、3枚は持っています。それらと会計クラウドを繋げることと、紙の有無は関係ありません。会社から紙が無くなるのはまだまだ先だとしても、記帳の自動化はペーパーレスよりずっと早くやってきます。
以上は、私個人の見解にすぎませんが、本文が皆様の事務所経営にお役に立てれば幸いです。

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