クローズアップインタビュー

インタビュー

吉田桂公氏

会計事務所がクリアすべき改正保険業法の課題

のぞみ総合法律事務所 
パートナー弁護士 吉田桂公 氏

コンプライアンス態勢の整備を最優先に

 昨年5月に改正保険業法(保険業法の一部を改正する法律案)が成立し、平成28年5月から施行される。残すところ10ヶ月となったが、その重要性が会計事務所業界に正しく伝わっていない状況にある。同法で定められた新しい保険募集のルールや代理店に対する態勢整備義務などは、決して会計事務所経営と無縁ではない。
 今後、保険を扱う税理士はどのように行動すべきなのか。金融庁検査局への出向経験を持ち、保険業法に精通する吉田桂公弁護士に解説してもらった。

2015年08月01日

吉田桂公 氏
のぞみ総合法律事務所
パートナー弁護士・公認不正検査士
2003年東京大学法学部卒。04年のぞみ総合法律事務所入所。06年日本銀行決済機構出向、翌年から金融庁検査局に出向し専門検査官を務める。
09年事務所復帰、13年パートナー就任、保険代理店の態勢整備に関する講演・執筆多数。

―税理士業界における改正保険業法の影響についてお聞きします。

 今回の保険業法の改正は、すべての代理店が対象となります。態勢整備の方法・内容等は代理店の規模・特性に応じたものでよいですが、態勢整備義務の適用除外となる代理店はありません。税理士さんの中には保険業法そのものが自分たちに関係ないと思っている方もいらっしゃると伺うこともありますが、まず、その意識を変えることが必要だと感じます。

―今回の改正保険業法のポイントは?

 改正保険業法では、新しい募集ルールとして、意向把握義務及び情報提供義務が導入され、また、保険代理店には態勢整備義務が課せられることになりました。意向把握義務では、保険募集人は、顧客の意向を把握し、その意向に沿った商品の提案・説明を行い、最終的に顧客の意向と保険契約の内容が合致しているかを確認する(意向確認)、といった一連のプロセスが求められます。

―顧客の意向を重要視しているわけですね。

 募集プロセスの当初から顧客の意向を把握していくことで、顧客は自らの意向を深く認識・理解し、適切な保険に加入することができます。まさに“顧客保護”につながります。意向把握義務のもとでは、募集人や代理店側の都合による「商品ありき」の売り方はできません。とくに会計事務所の場合、顧客の財務状況を把握できる立場にありますので、募集人が顧客の意向を十分に聞かないまま勝手に商品を選定する恐れがあります。これでは、意向把握義務を守っていないと判断されてしまうので、顧客の話に耳を傾け、意向を十分に把握してからその意向に沿った保険商品を提案しなければなりません。

―情報提供義務について教えてください。

 情報提供義務には、大きく分けて3種類あります。1つ目は、「契約概要」・「注意喚起情報」の交付・説明をしっかりと行うこと。2つ目は、付帯サービスに係る事項の説明を適切に行うこと。例えば、自動車保険の付帯サービスとしてのロードサービスが該当します。3つ目は、複数保険会社の商品を取り扱う乗合代理店の問題ですが、保険商品の比較・推奨を適切に行うことです。こうした意向把握義務や情報提供義務を果たせるように、代理店は適切な「態勢整備」を講じなければなりません。

―非常にハードルが高いように感じます。

 一社専属の代理店の場合、保険会社が指導してくれると思いますので、それほど心配はないでしょう。問題なのは、乗合代理店による保険商品の比較・推奨販売です。比較・推奨販売は、所属保険会社のマニュアル等には記載されていない代理店独自の業務です。保険会社は自社の商品を売って欲しいわけですから、比較・推奨販売の具体的な方法については教えてくれません。したがって、代理店自身で比較・推奨のプロセスを社内規則で規定する必要があり、どういう基準で保険商品を比較・推奨していくか、代理店は自分たちで考える必要があります。代理店自らの取組みが求められます。

―実際、どのように比較推奨すればいいのでしょうか。

 大きく2つのパターンが考えられます。1つは、顧客の意向に沿って商品を選別し、商品を推奨するパターン。もう1つは、特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等により、保険商品を絞込みまたは特定の商品を顧客に提示・推奨するパターンです。経営方針とは、例えば、「当社は、自社での取扱件数(平成○年△月から□月までの取扱件数)が最も多いA保険会社の商品を推奨する経営方針です」といったものです。


このような経営方針で商品を選別することを顧客にしっかりと説明する必要があります。

―代理店の経営者として注意すべきことはありますか。

 意向把握義務や情報提供義務は、すべての保険募集人に課せられます。所属するすべての募集人がこれらの義務を遵守するよう、代理店は、意向把握や比較・推奨のプロセスを社内規則や社内のルールに落とし込み、そうしたルールを周知徹底するために社内研修などを十分に行う必要があります。また、意向把握や比較・推奨の経緯を記録に残す必要もあります。


税理士さんが登録する代理店には、こうした文化はあまり根付いていないと伺っていますので、従来の意識を変えて、来年5月までにすべての募集人が対応できるように態勢整備をしておく必要があります。なお、態勢整備は「PDCAサイクル」を回して継続的に行う必要があります。P(Plan)は社内規程などの策定、D(Do)は組織作りや内部規程の実行、募集人に対する教育・管理・指導ですが、C(Check)とA(Act)により、社内規程がしっかり守られているか自分たちで検証し、問題があれば改善する必要があります。

―そのほか、税理士の代理店が気をつけることはありますか。

 改正保険業法では、保険代理店に顧客情報管理態勢の整備が求められます。例えば、Ⅹさんは保険代理店業務上、顧客Aの情報を閲覧する必要があるものの、同じフロアの会計事務所業務のみに携わるYさんも顧客Aの情報を閲覧できるというのは問題です。代理店と会計事務所を分けて、保険に関する顧客情報などは保険代理店業務を行うメンバーだけにIDやパスワードを割り振ってアクセス制限を行うことが重要です。なお、会計事務所で得た個人情報について、事前に利用目的を伝え、本人から同意を得ておけば、保険代理店に対し提供することはできますが、顧客に無断で流用することはできません。これは、保険代理店で得た情報を会計事務所に流用する場合も同じです。

―フロアは同じでも構わないのでしょうか。

 会計事務所と保険代理店との間に、物理的区分を設ける必要があると思います。恐らく、フロアのレイアウトと顧客情報にアクセスできる担当者の選定が喫緊の課題だと思います。レイアウトについては、マイナンバーが来年1月に始まりますので、その対応とともに行うとスムーズだと思います。

―代理店としては、やることがたくさんありますね。

 態勢整備は、それぞれの代理店の規模・特性に応じて行うことになります。代理店主のみの管理で足りる規模なのか、別に管理責任者を設置する必要がある規模なのか、また、比較・推奨販売を積極的に行うのか、取扱保険会社の数はどの程度なのか等の事情によって、態勢整備のレベルも異なります。意向把握・確認の帳票類や内部規程の雛形などのツールを用意してくれる保険会社もあるようですが、代理店の規模・特性によっては、雛形通りに対応できないところもありますので、そうした場合、自分たちでアレンジする必要があります。また、前述のとおり、比較・推奨のプロセスについては、代理店自身で社内ルールを定める必要があります。
 保険の収益が上がっていない小さな代理店の中には、態勢整備のコストや労力を考え、廃業するところも出てくるかもしれません。一方、大規模の代理店は、この改正をチャンスと捉え、小規模の代理店を吸収して規模のさらなる拡大を図ろうという動きも見られます。難しいのは、それなりに儲けが出ている中堅の代理店ですね。コストをかけて態勢整備を行うのか、大規模の代理店に事業譲渡するのか、どちらの方向に進むのか早急に決断を下さなければなりません。

―税理士が代理店に顧客を紹介して手数料を受け取るケースもあります。

 保険代理店から紹介料等の手数料を受け取ること自体は問題ありません。問題なのは高額な紹介料などを受け取る場合です。例えば、代理店手数料の50%以上を紹介料として受け取った場合、単なる紹介行為を超えて、保険募集を行っているのではないかとの疑いを持たれる危険があります。無資格者が、手数料をもらって、具体的な保険商品の推奨・説明を行えば、保険業法違反に問われます。金融庁の監督指針が見直され、単なる紹介行為なのか、それとも募集行為なのか、その判断基準が整理されましたが、顧客紹介を利用する代理店は、紹介者が無資格募集等の不適切な行為に及ばないように、紹介者を管理する責任を問われることになりますので、留意が必要です。

―最後にメッセージをお願いします。

 今回の保険業法の改正は、きちんとしている代理店がこれからも生き残っていく、そのような改正だと思っています。最近は、コンプライアンスがしっかりできている会社が消費者に選ばれる時代になってきました。今回の改正を前向きに捉え、コンプライアンスを代理店の“売り”にして顧客を惹きつけるような目線で取り組まれると、態勢整備もスムーズに進むのではないかと思います。コンプライアンス態勢を整えることが、顧客の利益にもなり、また代理店自身の利益にもつながるはずです。

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